哲ちゃんが大阪のクラブチームに所属した事により図らずも遠距離になってしまった私たち。哲ちゃんは週末は試合。連休になるオフの日は大体平日で、仕事をしている私と休みが被らず、なかなか会えないでいた。
日曜が清水や磐田との試合だと土曜から静岡入りで調整になる為、それに合わせて哲ちゃんが金曜の練習後そのままの足で新幹線に乗るのが常だった。私の家に1日だけ泊まってくれるのだ。


明後日は日本平でアウェー戦。スケジュール帳を再度確認し、私は仕事後の飲み会の誘いも断ってスーパーへと足を早める。
買い物の最中も、バスに乗った後もリップを塗り直しチークの濃さもチェックする。そういえば同僚に今日はデートか、とからかわれたっけ。見栄張りかもしれないが、やはり久々に会う彼氏の前では可愛くありたいものだ。そういうものなのだ。



買い出しを終え急いで帰り、哲ちゃんの好物を作る。もう八割くらいできた頃であろうか、玄関のチャイムが鳴る。緊張で鼓動が早まる中、モニターを確認すると、可愛い顔もまた緊張の色を見せてカメラ下の部分に視線を逸らしている。それを見て悪戯心が刺激されない訳がない。

「だれですかーあ?」
「おいーはやくあけてよー」

困ったような哲ちゃんの顔を見たら悪戯心は満たされ、はやく触れたい気持ちに掻き立てられ走って玄関に向かう。


扉を開けると、頬が緩んだ哲ちゃんが立っていた。


「ただいま、。」


一歩、足を進め扉を閉めると、哲ちゃんはわたしの頬を撫でた。愛おしそうな彼の視線と私のうっとりとした視線が交わり、甘い空気が流れた。

キスをするか、ハグをするか。

そんな雰囲気の中、懐かしい匂いがほのかに漂ったので思わず吹き出してしまう。


「?」


あまーいムードが壊れたことに戸惑う哲ちゃんの顔を見て、まだ緩い笑いが止まらない。そのまま彼の腕を掴んでその手首を鼻に近づけた。スンスンと嗅いで、匂いを確信し、やはり笑いがこみ上げてくる。


「な、なんだよー…??」
「わたしと会うために良い匂いさしてきちゃって。」


わたしと同じくらいの見栄を張ってくれた部分にも、こんなやっすい香水を未だにつけてくれているところにも笑いが止まらなかった。この香水、高校生の頃付き合い始めて初めてのクリスマスにあげたんだった。


(あー。哲ちゃんの彼女で幸せだぁ。)

胸いっぱいにこみ上げてくる想いは、抱きしめる事で昇華させた。
少し背伸びをして力一杯に哲ちゃんの頭を撫でた。柔らかい髪は少しだけ汗臭い感じがした。