まどろむ中で南葛市の名前を耳にし、そこで目が覚めた。
久々のオフで、テレビをつけ放しにして寝ていたか。
俺の故郷は小さい町ではないとはいえ、全国ニュースで南葛市の名が上がるとは珍しい。何事かと思えば、3年ぶりに開催された花火大会のことだった。

3年ぶり か。


ご時世を感じさせない、人で溢れる商店街が映される。
一瞬見えたのはシャッターの降りた文房具店だった。
ここは3年前にはもう閉店していて、その年の花火大会で雨宿りに使ったんだっけ。
隣にはあいつがいた。







彼女はずっと田舎臭さが抜けなかった
俺の夢を応援してもらうにはそのままで居てもらうわけにはいかなかった。
日焼けしたままの肌で買い物に行ったり、化粧をせずに外に出るままでは。

「もう少しさ、化粧したほうがいいんじゃない?」
「え…今日も丁寧にしてきたと思うんだけど」
「女子はもっと目デカくとかできるんだろ?」
「…」




自分のした言動を思い出しては苛立ちが溜まる。彼女はその後悲しそうな、そして不服そうな顔で黙り込んでいた。
そりゃそうだ。モデルでもなきゃアナウンサーでもない。ごく普通の学生だった彼女に、派手な容姿は必要ない。
でも俺も仕方なかったんだ。周りのチームメイトの連れは皆煌びやかだったから。先輩たちに紹介する日が来るとしたら、それなりの身なりに整えてほしかったんだ。





3年前のあの日、先輩たちが勧めてくれたブランドのバッグを後で渡そうと実家に置き、花火大会へ行った。彼女と会うのは二ヶ月ぶりだった。
途中天気が崩れ、文房具屋の雨除けを借り向かい合った。浴衣を着た彼女はいつもより背が低く、必然的に上目遣いになるその顔はなんとも愛らしかった。夏休み前に実習があった話は聞いていた。小麦色に染まった肌を見て、プレゼントのバッグの色を失敗したか、なんて考えていた。

「守くん、どんどんかっこよくなっちゃうね。」

下から俺の顔を観察するようすが無防備で可愛くて、思わずキスしようとするも即座に阻まれた。
その理由は周囲の目のためかと思ったのだが。

「守くんのそばにいつづけるなら、私は夢を諦めなきゃだね。」

そして、花火は悪天候のため中止。俺たちは小雨の中解散した。



その一ヶ月後、俺たちは別れた。寮生活の俺の生活圏には彼女との思い出は殆ど無く、渡すはずだったバッグの、ブランド名がでかでかと入った梱包だけが残された。






当時は何が起こって何故振られたのか理解ができず、先輩たちを頼っては飲み歩いた。そこで今の嫁とも出会ったのだが。
今なら俺に問題があったこともわかる。彼女が保育士の夢を叶えるために俺の要望全ては応えられなかったことも。ただ俺が支えていくから手放しで着いてきて欲しかった面もある。そんな頼りないのかと落ち込んだりもした。
そしてまだ少し悔やんだりもする。

とはいえ俺はこの生活を手放すことはもちろんない。
あいつも今頃地元で幸せに暮らしているだろう。







「守くーん、朝ご飯できたよー?」

嫁の呼びかけの後ろで聞こえるのは、生まれて三ヶ月になる息子のはしゃぎ声。
すらりとした嫁の作る、完璧な朝食から今日も1日が始まる。


20220812