半年前に一緒に買いに行ったセットの食器は、一方のみに使用感が増してきていた。ついに先ほど私の茶碗は欠けてしまった。太郎さん用にした青磁の丸鉢は、おろした当時に洗ったきりよもや一度も使っていない。


「おかえりなさい!夕ご飯は・・・」
「センターで食べて来たよ」
「(だよな)」

夕餉の支度をしている中、太郎さんが帰ってきたのがわかり玄関まで出迎える。
太郎さんは練習の後、チームのアスリートセンターで食事をすませてくるのが常なので、本日もそうだろうと分かっていた。休日は試合前の調整や、試合があることが殆ど。オフの日は出先で一緒に食事をするものだから私が手料理を振舞った経験は片手で数えられるほどだ。
しかし念のためにと、毎度こうして太郎さんが帰るたびに確認してしまう。
少し落胆した私の表情を汲み取ってか、太郎さんはキッチンの様子を見にきてくれた。


さんは?」
「あ、今から」

そうして作り途中の鍋に目をやると、煮すぎた出汁はからからに蒸発し、筍の裏が鍋に焦げ付いていた。


「これは、、、?」
「筑前煮・・・?」

自分でさえも何を作っていたのか忘れかけたほどの見た目に、ついつい返しに疑問符がつく。
太郎さんの目尻が少し下がった。




 結局夕飯は失敗作の可食部少量と、味噌汁と米。少しの洗い物を済ますとソファに休む太郎さんの背後に周る。
いつものことだ。向こうでシャワーも浴びてきたのだろう。太郎さんは湯船に浸かる習慣があまりない。
室内灯にも透ける細い髪からは爽やかな石鹸の香りと、少しの男性臭さが漂う。
彼のうなじに劣情を抱き、触れる口実を探る。


「じゃあマッサージでもしましょうか。」
「トレーナーにやってもらってるから大丈夫だよ」
「(わかる?)」


流石に身体のことはプロの管理が行き届いているので私はお呼びでないことなどわかっている。
お互い仕事から帰って別々の時間を過ごしており、私が太郎さんにできていることは何一つもないと思い知らされる。

「じゃあ。い、一緒に寝ますか・・?」

 ちなみに我々は生活リズムが異なるため、寝室は別だ。

さん明日もお仕事でしょ?ボクまだ動画見たいから先に寝ていて」
「(だよな)」

わかってはいても、提案全てを棄却されるとなかなか耐えるものだ。
いちいちこんなことで涙が出る情緒でももうないから、「はあい」と一言だけ返し、自室へと足を運ぶ。


さん。」

「あのね。さん、ボクはさんに何かしてもらいたくて結婚したわけじゃないんだ」
「今日みたいにご飯焦がしたりしてるのを見ているだけで凄く楽しいんだ」
「また時間のある時に、いっぱいお話ししよう?」
「だから明日に備えて、ちゃんと寝てください」


 さりげなく自分の失敗を蒸し返されたことはこの際どうでもいい。くたびれた部屋着の裾から覗く結婚指輪を優しく撫でる太郎さんの仕草を見て、思い出す。 この無防備な姿を独り占めできるのが結婚の旨味だったと、上がる口角を髪で隠した。