| 最悪だ。失敗した。美容師にこだわりを伝えたつもりが、どうしてか、前髪をまっすぐに切りそろえられてしまった。 翌朝休みたい気分を抑え込み、自分を鼓舞して登校した。学校に着くなり、クラスメイトから出会い頭に「その髪どうしたの?!」と心配された。友人や知人にひとしきりいじられた後、やっとみんな見慣れてくれたのか、昼休みになると誰も私の前髪に言及しなくなっていた。 のに。 4時間目の英語に向け、廊下に並ぶロッカーから電子辞書を取り出したところだった。 「えっ」 声の方向を振り向くと、隣のクラスの岬くんとバッチリ目が合った。 ぽかんと、私の前髪に視線を預けたまま3秒程度固まったのち、何事もなかったかのように自クラスへと戻って行った。 一体何だったのか。 ところで南葛高校の英語の授業は2クラス合同で、テストの結果により教室を振り分けられる。 私は教室の移動はなかったが、並び順で石崎くんの隣の席を借りる形になる。 岬くんも同じ教室で受けているのだが、授業前に石崎くんへお話ししにくるのを近くで見ていた。 岬くんは学内でも有名で入学当初から彼のことは知っていたので、こう近くで見られる機会があるのは喜ばしいことだと思っていた。 授業開始まで後5分となった頃、隣のクラスから教科書を抱えた岬くんが小走りで石崎くんの元へ近寄った。 「さんって なんであんな髪型になっちゃったの」 前言撤回。こんな会話を聞いてしまうものなら、いっそ遠くで見ているだけの方が良かった。 恥ずかしさに堪えきれず、でもそれを悟られぬよう、教科書を開き予習を始めるふりで乗り切る。 石崎くんが「おいおい」なんて言いながら岬くんを教室の外へ連れて行くのが視界の端に写った。 |