机の上の腕時計がかちゃりと音を立てた。もう外は暗く、窓から差し込む月明かりがわたしの足首を照らす。あ、蚊に刺されてる。
ギィ、鈍い音と開いた戸から黄色い電気の光が入り込んだ。逆光で影になった顔がすこし困ったように笑う。

「だめだよ、こんな時間に来ちゃ」

戸が閉まると闇に慣れない目が疲れたように青緑を見せる。邪魔する青緑をかき分けロベルトさんに抱きついた。

ちゃん?」
「ロベルトさん、お酒くさいです」
「はは…」

ロベルトさんは笑いつつもわたしの腕を離そうとしたから、わたしはもっと強くしがみ付いた。

「ロベルトさん。」
ちゃん、大人をからかってはいけないよ」
「子供扱いしないでください、」
ちゃんは子供じゃないか」
「高校生です、もうじゅうぶん大人です…!」

彼の声が本当の大人を見せ付けるように1オクターブほど下がったものだから、わたしは必死に腕に力を入れる。
が、やはりロベルトさんの力は比べ物にならない程強く、わたしの腕はやさしい手つきで解かれた。
そして一度、柔らかく苦笑したようにこちらを見てから、その場にしゃがんだ。

「さあ、家まで送ってあげるから」

ね、
そう問い掛ける背中に渋々かぶさる。

「よい、しょっ」
「…」
「あー重くなったね」
「…」

すこしムスッとしたまま背中に顔を埋めてみた。

「ロベルトさん…。
わたし、ロベルトさんのこと好きです」
「…、」
「…」
「だめだよちゃん」

背中からロベルトさんの低いままの声が響く。

玄関まで移動すると、靴に足を突っ掛けながらわたしのサンダルもひょいとつまんだ。

「ロベルトさん、わたし本気なんです」
「あと一月もすれば忘れるさ、きっと」

声の波長はやっぱり変わらなかったものの、寂しげにも聞こえた。

(この気持ち、忘れるわけが無いのに)(もう5年も思い続けてるんだもの。)


「ロベルトさん、お酒くさいです」

気付かれないくらいにそっ、と背中にキスを落とし、ほのかに香る香水の匂いのなか眠りにおちた。




20100905