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「なら付き合えば良いじゃん、それだけの話だろ」 滝くんの冷たいように言葉を放った口元を見るだけ。わたしは何もいえずにそれだけしか出来なくなった。 その通りだと納得した訳でなく、何というか、淋しさを感じてしまって言葉が見つからないのだ。 先日、私は隣のクラスのある野球部員に告白された。 昼休みの始まりにわたしを呼び出した彼の、ごつごつした豆だらけの手は彼の頭に添えられ、照れたように目を細めたあとに一掻き。 「のことが好きなんだ。付き合ってほしい」 もちろん、そう言って貰えてわたしは嬉しかった、それに、少し恥ずかしかった。だけど何故か悲しかった。その3つを主として様々な感情が混ざり合い、返す言葉を探りもせず俯いた。 そんな風にうじうじしているのだから、時間はどんどん過ぎて、昼休み終了の予鈴はすぐに鳴ってしまった。彼はおそらく困るわたしに気を遣ってくれたのだろう、 「返事はいつでも良いから。どんな答えでも遠慮、すんなよ。な!」 とはにかんでわたしの左手を握った。 すごく温かい、そう思った時にはもう午後の授業が始まろうとしていた。 わたしは男の子の気持ちが分からない以前に自分自身の気持ちもわからないのだから、正直どうしようもない。 ――どうしてあの時素直に思ったことを言えなかったのだろうか。嬉しいよ、それだけでも言えていたら、彼は確実に救われていただろう。少しは安心出来ていただろうに―― そんな後悔ばかりがもやもやと残り続け、ますます気持ちが分からなくなっていた。 一人で考えても埒があかないと気付いたから仕方なく仲の良い友人に相談することにした。(仕方なく、だなんて。本当わたしは嫌な奴だ)自分一人の決断は責任が問われるから、それを逃れるための言い訳でしかないのに。 「格好良いんだし付き合っちゃえば良いんじゃん」 「嫌いじゃないんならさ。一緒にいれば絶対好きになるよ」 こんな答えを貰ったが、なんだかわたしの期待していたのとは随分違う気がしてならなかった。が、それは口に出さないで置いて、為になった、納得した、みたいな声で相槌を打つ。 「ふうーん」 「…無理しなくっても良いよ」 「うーん、男子に聞いてみれば」 わざとらし過ぎたのか思った事を察しられてしまい、そして突き放されてしまった。 男子といっても、唯一そんな話が出来そうなのは滝くんしかいなかった。 何故か、このことを滝くんのに相談するのは気が進まなかった。あまり言いたくなかった。 だけど彼の答えには期待できるのだ。これも何故か。女の勘ってやつなのか。 そしてそんな期待も、冒頭にもあるよう滝くんの言葉に崩されてしまう。口調は妙に冷静、それに顔は怒っている時のようで、何も読めなかった。 全く察する事の出来ない滝くんの心に不安で涙さえも目に浮かぶ。今になって、あの時の野球部の彼の気持ちがよく分かった。人の気持ちを探ることは、こんなにも恐ろしいことだったなんて。 「で、なんで俺にそんなこと話したの」 「え…と、それは…」 「…単に自慢したいだけ?」 「そんなことっ…違うよ!」 あまりにも的外れな事を言われたもので感情的になってしまったわたしを見て、滝くんは不機嫌そうな顔になった。 「なんか怒ってるし。」 「…だって滝くんがそういう事言うから」 「なに、誉めれば良かったのか?さんモテモテだねー、って?」 「…なんで今日ばっかりそうなるかなあ…」 「じゃあなんて返せば満足するんだよ?本当意味わからない」 はあ。 ついには滝くんにため息まで付かれてしまった。これにはいよいよ堪えきれない。感情なんてコントロールできたもんじゃない。歯をくいしばってみるも、滝くんの嫌そうな目をみればそれは全て弛んでしまう。 「…滝くんの人でなしっ!ばかっ!」 「にそんなこと言われる筋あ…」 滝くんはわたしの顔を見て驚いていた。泣いていることは自分でも分かっているけど、きっとそれ以上に酷い顔をしているのだろう。 ここまでしてしまって、もうこれ以上は恥ずかしくてこの場にいられない。とっとと去ってしまおう。 そう思ったのだが足が動かなくて、おまけにわたしはスラスラと余計なことまで口走っていた。 「どうしてわかんないの!」 「…え」 「滝くんに、やめとけって言ってほしかっただけなのに! そう言って貰ってわたし、滝くんのこと好きでいて良いんだって安心したかった!」 滝くんに対してのわたしは、感情よりも行動の方がよっぽど正直だった。 もし滝くんが、やめとけ、と言ってくれなかったとしても、きっとやさしい言葉で的確なアドバイスをしてくれると、そう期待していたのだ。 滝くんに嫌われる事の腑甲斐なさと、素直じゃないわたしへの自己嫌悪で心は内歪み、どうしようもなくわあわあ泣いた。 何故か滝くんへ向かってばかだの阿呆だの暴言を吐き、またわあわあと泣いた。 「…」 自分の素直な心の内―…滝くんのことが好きだ、という本当の気持ち― にようやく気付いた事への安堵もあったのかもしれない。 ごめんね滝くん。引いても良いから、今日ばかりはこの嘆きを聞いていてください。
20110307
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