私は新田からのメールに即座にオーケーの返信をした。


あいつ、どんな風になっているんだろう。

聞きたいことはたくさんあった。彼女が何人できたのか、モデルと合コンするのか、今まで元気にしていたか、南葛の先輩との交流はあるのか、卒業前付き合っていたエイ子ちゃんとはまだ続いているのか、、高校卒業後進学した私とは全然違うであろう新田の生活に興味は深まるばかり。

別に今更新田の事好きになることは無いけど、舐められないように、いつもは使わないブランドのリップを引っ張り出した。一番最近買ったワンピースを履いた。貰い物のバッグに化粧道具を入れ、履きなれないヒールで背筋を伸ばして向かった。



集合場所に着くと、メディアで見るよりずっと垢抜けた新田と、同級生2人がいた。ぶっちゃけ後の二人はどうでもよかった。新田に、綺麗になったと思われたかったのだけど。

「お〜!変わらないな!」

見るなり驚いたような顔をして言われたもんだから、拍子抜けだ。せっかく張り切ってきたのに。普段綺麗なひとに囲まれてるから、久々に田舎臭い私を見てびっくりしちゃったのかしら。


店に着き席に座ると、まずはサラダ頼むか、とメニューをひょいと持ち上げる新田。
酒頼むよね、とドリンクメニューを渡してくれる新田。
おつまみ小さいのいっぱい頼もうぜ、と笑う新田。
人数分のお猪口を頼んどいて日本酒のめるか?と意地悪そうに聞く新田。
なんで終始楽しそうな顔をしてるんだろう。
全てが新鮮だった。少し痩せたし、最後にあった新田と全く違うのかと思ったが、八重歯だけは変わらなかった。新田の口角が上がるたびにどこか懐かしい気持ちになる。


「おいー知らなかったぞ、なんで連絡しねんだよ〜」
「バレンタインくれなくなったよな」
の初日本酒つぐぜ〜」

男子に囲まれた中、全ての話題に私が取り残されないようにしてくれた。
本当に、大人になったなあ、いいやつになったなあ、、、
なんて新田の一挙一動に感動していると、アルコールも回っていたのか、飲もうとした日本酒が胸元にこぼれた。

新田はすかさずおしぼりを取った。だいじょぶか、と胸元を拭ってくれる新田の動作を見てある光景が頭をよぎった。

ー高校生の頃、一度だけ一緒に電車で帰った事がある。たまたま車内で居合わせたから、隣に座って帰ったのだ。真夏だった。男子と帰るのは初めてで、緊張して水筒のお茶をこぼした。襟ぐりに垂れた瞬間、新田は肩に掛けていたスポーツタオルで拭った
。とっさにした行動だったのか、数秒後気まずいように手を引っ込み、「悪いっ」。私も恥ずかしくなってしまったが、なにが?と問わんばかりの涼しい顔をしていた。ー

でもやっぱり今の新田は違くて、女子の胸元をためらいもなく拭ってくれるし、「シミになったらたいへんだからな」なんて服の心配までしてくれる。
…私の方はやっぱり変わらずに、近くに新田の手がきて心臓が飛び跳ねたけど、それを悟られぬような笑顔でお礼を言うの。

そこから新田からのボディタッチが増えた。ヒザを、隣に座ってる私のヒザにコツンと当て、私もまんざらでもなく動かさなかったことで気を良くしたのか、
全然連絡くれねえから寂しかった」
そういって私の肩に腕をまわす。

(あ、分かっちゃった。)

多分私は「持ち帰れる認定」されてしまったんだろう。前に聞いた事がある、合コンでよくあるボディタッチ。
こんな事されたの初めてだったかも。でも都会の女になった私はそれも気にしてないふりをして上手くかわす。
もう、と笑いながら新田の顔を見ると、まじまじと私の瞳を見つめてこう聞いた。
「かれしいんの」
ひどく緊張した。こんな顔の新田を見るのは初めてで。いやな緊張感だ。
そして何となくはぐらかし、新田こそいるのか訊ねると、軽く怒って
「いねえーよー」
彼女は、か…。先ほどまでときめいていた相手は、想像したのと少し、いや、大きく違ったのかもしれない。テンションが急激に落ちた。

彼女の話から話が展開し、男子たちは"女友達"の話をしていた。もちろんそういう友達。
正直どうでもよくなってしまった。興ざめであった。自分自身にも。
そりゃそうだ、いくら幼馴染と言われた事があれど、連絡も碌にとらなかった女に好意を抱くやつがあるか。田舎から都会に行って少しばかり化粧を覚えた女を見て綺麗になったと思うものか。せいぜい"女友達"にしたいと思われただけでマシな方なのか。はずかしい。変に期待して、本当に悔しい。
急に居心地が悪くなったこの空間。
終電を理由に帰れる時間まであと1時間、新田の顔を見れないまま店内のメニューボードを見つめてやりすごすのだ。


20170307