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へんなやつ、と思ったのが第一印象だった。 おれたちサッカー部の他に部活に熱心になっている、しかも女子というのが南葛高校では珍しかった。 部活後トレーニングルームに残っていたのはおれひとりだった。というのも今日は南葛高校の入学式で、部活があったのはサッカー部だけだった。毎年サッカー部は入部希望者が多いから、一年生は学校の外周を走るだけで終わる。死ぬほど走らされる。そうやって2週間生き残れたやつだけが本入部できる。 絶対に振り落とされるもんか。おれは一番上に行くんだ。 ガラッと引き戸が開く。張り詰めた空気が一変。ヒョコヒョコと入ってきたのは女子だった。目だけ動かし部屋の器具を順番に辿っていく。一周見渡したところで、おれと目が合った。 ほっそい腕でベンチプレス台を指差し、一言放つ。 「これ、どうやってつかうのか、わかりますか?」 「・・・はあ?」 さも自分が使い方だけわからないかのような表情だった。使い方さえ教えてもらえれば持ち上げられますんで、なんて顔で、だ。先までおれが使っていたプレート50kgがついていた。笑うというより呆れてしまった。 口の端を吊り上げたおれの返事に、そいつは一歩、後ろへ下がった。眉間に皺を寄せ、何か考え込んだと思えば、また一歩こちらに歩み寄る。 「わたし、インハイ目指してるの」 「へえ、」 何を言ってるんだ、ていうか、どの身体でどの器具を使おうとしているんだ。 本気なのか、ふざけているのか、意図が分からず困惑した。 「・・・まずは腕立てとかしたらどうすか?」 するとそいつは「なるほど!」と真面目に頷き、その場で腕立て伏せを始める。 一体なんなんだ。 (・・・まあいい、おれは自分のすべきことをするだけだ。) 「1、2、3、・・・」 (・・・まじかよ) 「・・・10!はあ〜きつい!」 (おいおい。) たった10回で床に倒れ込んだ。 これでもかというほど視界に入り込んできて、自分のトレーニングもそこそこになる。 「きみ、筋トレとか詳しいの?」 「え?あ、はい、まあ」 「よかったら教えて! わたしザコなんで恥ずかしいんだけど、まずは県大会いきたくて・・・」 どうやら先ほど言ったインハイを目指しているのは本当だったらしい。自信なさげに微笑んだ頬が赤らむ。 まずはその態度を、いやまず適正な目標の設定を、など言いたいことは次々に浮かぶ。だが、これまでにこんな後輩はたくさん見てきた。(体操着の色からして先輩だろうが。)こういうふうに夢ばっかでかく持って、大した努力もせず練習で音を上げて逃げていくやつ。今までにたくさん見た。関わった方が時間の無駄だ。 「そーなんすね」 興味なさげに返事だけをすると、その人は慌てて腕立てを再開した。 腕を震わせながらなんとか50回を終え、いよいよといった空気を纏い例のベンチプレスに寝転んだ。バーを握ったが、案の定びくともしない。その人は落胆したようにしばらくそこに寝転んでいた。 かける言葉もなく、そんな間柄でもないので、持参したラダーを広げスピード練習に移った。 ・・・冷たくしすぎたか。 もう、関わることはない・・・と思った。
20250529
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