晴れて本入部となり、踏ん張りどころを10回も超えた。毎日クタクタだった。なのに、トレーニングルームに行けば、あのひとがまたいる。
しかもだ。

「っ、うぅ・・・」

このところ、持参のマットで腹筋、腕立てと、ハムストリングを100回ずつやっていただけだと思っていた。あのひとはおれがいつも使っている台に座り、20kgのバーベルを握っていた。びくともせず、手が震えている。

「無理すんなっての。」

ふいに声が漏れた。入学式の日以来、なんとなく隣で自主トレをしてはいたが、あの日冷たい視線を送った以上、話しかけるのは後ろめたかった。

「あっ、ごめんなさい・・・でも、きみみたいに強くなりたくて」

すこし驚いたように顔をあげるが、おれをみて目尻を下げた。
確かに何かを決意したような瞳の奥の輝きに圧倒された。はぐらかすように視線をそらした先に、 の名前を見つけた。

さん、っていうんだ。



―――


わかる?」

入部から一ヶ月、部室のロッカーを使えるようになった。
まさか先輩たちの口からあの人の名前を聞くとは思わなかった。
それ以上に耳を疑ったのが、あいつに人気があるらしいということ。どうやら噂では、別のクラスの男に告白されたのに部活を理由に断ったらしい。
(あの人が??)
最近は芯のある部分もわかってきたし努力家な部分は認める。しかし、だ。まさか人から告白されるまでとは思わなかった。見た目は目立つ方じゃないし色気もないし、男の俺を前に全力でウエイトトレーニングするのも厭わないし。顔は、どんな風だったか印象に残っていないけど・・・―

の部活って強いか?」
「断りたかっただけだろ。練習時間も短いし見るからに弱小部だし・・・」

先輩たちの噂話は部活の成績にまで及んだ。

あの人がインハイに目標を掲げているのは入学式の日から知っていた。自信なさげに微笑みながら器具の使い方を聞かれ、一度は冷ややかな視線を送ってしまったが・・・。
いくら先輩たちからとはいえ、あの人が過小評価を受けるのは違う気がする。

「いや、あの人自主トレとか頑張ってるっすよ」

終わりかけの話題にも関わらず突然割り込んだからか、先輩たちは目をまるくし一斉におれをみた。そこで我に返り言い訳がましく付け足す。

「その、先輩たちが人を貶すのとか見たくないってことです!」
「新田・・・」

歯切れの悪い俺を見て、大きく頷き肩を組んできた。先輩たちは楽しそうだ。ニタニタと笑いながら「そうかそうか」「まさか新田がな」なんて付け足す。

なにか勘違いをされているようで、嬉しそうに について語り出した。クラスは文系、成績は良くなく、運動も得意じゃない。明るくよくいろんな人と話すらしい。そのほか誕生日や出身校区まで話し出す始末。

「他に何か知りたいことあるか」なんて聞いてくるが、残念ながら期待するような感情は全くない。
じゃあ、なんで庇ったかって、そりゃ毎日努力してる人だし。それを近くで見てるわけだし・・・。


20250529