「おいあんた、それじゃ怪我するぞ・・・!」

またもや口を出してしまった。いつもと違い今日は、さんはめちゃくちゃなフォームでバーベルを握っていた。

「あ、そう?でも、この角度だと持ち上げられそうな気がして。」
「できたとしても間接痛めるだけっすよ」

おれは頼まれてもいないのにバーベルに手を添え、腕を背中と垂直に持っていく。さんの身体は思ったより細く、でも握力は意外にしっかりしていた。
前よりマシになっているな、なんてぼんやりしていると、さんの胸元に手が触れてしまいそうになった。慌てて一歩引いたが、そんな配慮もよそに、真剣な面持ちでバーを握っていた。



ここではじめてさんの顔を正面から見た。たしかにこの人、綺麗かもしれない。眉の形を整えていたり、制汗剤の香りが微かに感じられたりする。控えめながらもちゃんと見られ方を意識しているらしく、何故か苛立ちが湧いた。





でも、さんがバーベルを上げた瞬間、何故かちょっとだけ嬉しくもなった。


ーーー






それから間も無く、インターハイ地区予選が始まった。

さんは自分の部活の三年生たちにミサンガを作ったそうで、おまけだと言いおれにもひとつくれた。
おれは一年生にして選手登録を果たせたものの、試合には出場できなかったので、脛当ての下に輪を浮き立たせ、ベンチを温めた。


サッカー部は難なく勝ち進み、県大会出場が決定した。



さんの部活はというと、昨日中部予選だったようだ。


結果は聞かなくともわかった。トレ室の空気が、これまでになく重たかった。

「あのさ、あんたまだ二年生でしょ」

気の利いた言葉が見つからない。おれが話しかけたところでさんの顔は暗いままだった。

「やっぱ筋トレぐらいじゃ変わんないよね」
「そんなこと・・・、っ」

昨日の試合を思い出したのか、さんの眉尻はみるみると下がり、口はへの字にまがる。

「っ・・・、ちょっと、ここで待っててください、誰にもその顔見せるなよ」

居ても立っても居られず、さんにタオルを投げつけ扉を乱暴に開いた。走った先は紙パックのパッケージが並ぶ自動販売機だ。



確かクラスの女子はこれ飲んでいた気がする。・・・でもさんって食事制限してなかったか?・・・いやでも女子なら甘いもんすきだろ。・・・意外とコーヒーとかの方がいいのか?
(わかんねえ・・・!!!)


思いつくジュース全てを買ってまたトレ室に戻った。ガラッと扉を開くと、涙に濡れた頬を拭うさんはおれを二度見する。



「ええっ、はやかったね・・・!」
そしておれに抱えられた幾つもの紙パックをみて吹き出した。


口元におれのタオルを添えて、ケタケタを笑った。




こっちの顔の方がずっといいと思った。


20250601